第2回歌会の報告(2012年8月2日)
8月の歌会は、ヴァカンス真っただ中であったものの、8名の方にお集まりいただき
数十年前から現在に至る「さまざまな愛のかたち」の歌を鑑賞し、語り合いました。
(2行コメントはN.Sさん執筆)
二〇一二年八月二日「リヲンのつばさ」歌会作品
― さまざまな愛のかたち ―
第一席(5票)
老いゆけし母の手を取り桜道天のぬくもり願い深しも B.Y
年老いた母をいたわる気持ちが、満開の桜と天国の美しいイメージとともに優しく広がっていくとても心地よい歌。2月連続第一席の作者の実力に敬服。
第二席(4票)
はるばると息子来れる、思い出を語らず食らう夏の夕暮れ N.S
「食らう」の語に不満の気持ちが読み取れる。作者は息子の父であるが、仮 に母だとすれば、また違った印象を与えるであろう。
瞼(まなぶた)の火影を辿るミロンガの名前も知らぬ君に委ねて V.R
タンゴを踊っていると、たまにフィーリングが合ってそのままついて行こうかしらと思う瞬間があるそうである。妖しい愛の雰囲気が中年男を惹きつけた。
第三席(2票)
愛されし記憶わずかに遠のいてうなだれて夜の家路をたどる N.S
深夜、帰宅を急ぐサラリーマンたちの胸に去来するそれぞれの愛の記憶。「わずかに」の語が良くも悪しくもひっかかる。心の隙間を詠った歌。
愛おしき巣立ち我が子と夢ごっこ過ぎ行く夏の夕焼け子焼け B.Y
巣立ってしまった愛おしい子供と久しぶりに過ごす夏休み。夢のような時間も、夕焼け小焼けのチャイムのように終わりを告げる。儚くも美しい歌。
いつもとは調子はずれたテンポとリズムセッコウギブスのわが子のあゆみ K.H
一読して情景が目に浮かぶ。セッコウギブスのカタカナ表記とぎくしゃくした歩みが良くマッチしている。怪我されたお子さんの回復は順調ですか?
遠雷が七夕を送る明け方に同床異夢だからこそ同じ夢見たし I.I
愛する人と共に迎えた七夕の朝。一緒にいてもしょせん他人同士だが、願わくばずっと同じ方向を向いて生きていきたいものだ、と遠雷を聞きつつ思う。
わがままも聞いてあげる父だけど時にはふんか(噴火)介護愛かな I.Y
父を思う娘の素直な気持ちが良く表現されている。「介護愛かな」が言わずもがなで惜しい。ふんか(噴火)は、ふん、とそっぽを向くこととの掛け言葉か?
わが骨(こつ)を夫のそれと混ぜたまへ永遠(とわ)の眠りを分かち合うため T.H
リズムがあってとてもきれいな歌。このように言い切れるのは、すごい愛であるし、うらやましくもある。
両手広げ空を抱くようにきみを愛そうまっさらな心で真っ白な花咲かせ M.M
とても自然で素直な歌。誰に対してであれ、人を好きになる時はこんな気持ちでいたいという、純粋な愛の賛歌。
第四席(1票)
(長女出産)君の横大丈夫かと尋ねつつ一緒になって吸ったり吐いたり Y.K
いわゆるラマーズ法を実践中の若く優しい夫。今月作者は、新婚時代回顧三部作を発表し、その愛妻歌は一部女性読者を興奮させた。
若き恋恋に恋してナルシスト思い乱るるは熱病の如し G.N
誰にも思い当たる節があり、その意味では共感できるが、やや解説的に過ぎてイメージが膨らんで来ないのが残念。
グロゼイユフランボワーズ赤い実たわわ今年のジュレはメイド・バイ・タカコ Z.T
義母がいつも庭の果実で作ってくれるジュレを今年は自分が義母の長寿を願って作ろう。その愛は尊いが、歌中に義母についてのヒントが欲しかった。
置いてけよ肌の香一片モヘア抱き最終便を目で追う君 M.Y
遠距離恋愛中の男女。束の間の逢瀬の後、帰っていく女に男が呼びかけている場面とのこと。様々に想像力を掻き立てるところがおもしろい。
(結婚前)アパートの狭き部屋なるその隅にそっと置かれた君の姿 Y.K
フランスの小さなアパートで暮らす結婚前の男女の姿。遠慮がちな表現の中に、つつましくいじらしい愛情が感じられる。昭和時代が目に浮かぶ歌。
真夏日のしぶき上げつつ子供らとたわむれながら今日も過ぎゆく B.Y
水遊びをしている情景が目の前に広がって来る。音もいい。この様な何でもない日常を過ごす事の幸せが愛に満ちている。時間の流れ、余韻を感じる。
愛国心お国の為に戦いて散りせし命露とし消えゆる
G.N
個人的感情を大きな次元に高めた時にこういう歌となる。私たちは、実は普段からこういうことを考えているのではないだろうか。
見るだけねとしゃがみこむ小さな背にまたやられたねと甘き親たち T.H
子供に甘い親を第三者の視点でカメラで写すように歌っている。かわいい感じに好感が持てるが「甘き親たち」が説明的に過ぎ別の言葉だともっと良かった。
鳴き交わす小さき鳥のさえずりにまぶたに浮かぶあけゆく祖国 T.H
「あけゆく祖国」は際どい言葉で、そこまでの不思議な感覚が最後に種明かしされ残念。作者は日本でロンドン五輪を見てたのでは、との解釈も。
その他作品
遇い逢い相開い藍哀遭い間挨飽い瞹空い合い合愛会い
全て「あい」と読む。連作ではなくこれだけ独立して鑑賞するのは無理との一方、漢字の意味から物語になっているのでは、との意見も。
藍色は青より出でて愛染め色味わい深く艶やかになりぬ(艶やかなり)
各句の出だしを「あ」 からスタートしている。良く出来ているが、中国の詩に同様のものがある、との意見が。
(新婚ほやほや)暗き道一緒に帰るその途中いつものスーパー今日はステーキ
60年代~70年代の日本の時代を感じさせる歌。ステーキというのが泣かせる。いわゆる「神田川」の世界に大いに共感。
五月晴消えゆく機体見送ってかすむ視界思い出すごと愛(かな)しさつのる
遠距離恋愛中の気持ちを歌った。良い歌だがまとまり過ぎか。黄金週間後に飛び立った飛行機はどこへ向かったのか?そしてその愛の結末は?
大空を切り裂く飛行機雲の果て裂かれぬ愛を信じて憩う
何故憩っているのか良く分からなかった。オーベルニュの高原の空を飛ぶ飛行機の彼方に存在する神様の愛に憩っているとの説明で納得。
しあわせは絶対ひとりでやってこない初夏の夕暮れとりあえず乾杯
久しぶりに帰国した作者が、日本の飲み会では「とりあえず乾杯」と言うことを発見。その意味と場面を追求した作品。
追憶の重き扉も赤葡萄(ワイ)酒(ン)するりコロンの香りそのまま
香りは記憶と強く結びつく。赤葡萄酒(ワインをあえてこう表記した)の香りをかいだ瞬間によみがえる過去の愛の記憶。それは甘いのか苦いのか。
一度だって愛してるとは言われてないだけど知ってる愛されている
日本女性らしいかわいらしさが出ている。どのような関係でも、「好き」と言われることはあっても「愛している」と言われることはない、という発見。
「ねえ、ほら」「うん」すくない言葉で通い合う共に過ごしたときの長さよ
ともに過ごした時間の長さが、二人の一体感を高めていく。共感ないし納得はできるが、説明的に過ぎて感動を与えるには至らなかった。
白き歯の唇の形を真似ている発声レッスン恋のてほどき
仏語学習を始めた頃、先生の目ではなく唇を見ていた。仏語発音の難しさから納得できる。そこから芽生える恋も、経験したことはないが納得できる。
ほとばしる思い重なりKizuna生まれ薔薇語が行き交い絆深まる
言葉は通じなくても互いの専門の薔薇の用語で交流と絆が深まっていくことの感動。Kizunaの薔薇についてはリヨン出張駐在官事務所のHP.参照。
永遠(とわ)に続く愛はなしされど永遠に勝る一瞬は刻まれしきみと
どんなに深い愛にも必ず別れは来るが、この素晴らしい愛の一瞬は永遠に私の記憶に刻まれる。良く理解できるが、抽象的かつ解説的に過ぎるか。
不良っぽいところがいいねイタリアは優雅にうなずく束髪(シニョン)のうなじ
会話をしている二人の関係とイタリアの位置づけが不明。作者が始めて来仏した頃の70代の伊男性と40代の先輩日本女性の関係とのこと。
【番外作品】
大野山そびえ輝き愛されし世界に誇れり神の山なりB.Y
7月第一席作者のサービス作品。リヨンオペラ座首席指揮者の大野さん(大野山)への愛と敬意を込めて。番外でなければ投票してたのに、という人が。
今月の栄えある第一席の歌は、先月に続きB.Yさんの歌が選ばれました。
おめでとうございます!!
さて来月の題詠は「八月」。
自由歌と合わせて2首の歌を提出ください。
今から次の歌会が楽しみですね。
歌会の一場面。
さてほろ酔い会を始めましょうか。
とりあえず乾杯。「愛と青春に!?」
7月のワイン試飲会で大好評だった仲田さんのワインを頂きました^^。
M.M
数十年前から現在に至る「さまざまな愛のかたち」の歌を鑑賞し、語り合いました。
(2行コメントはN.Sさん執筆)
二〇一二年八月二日「リヲンのつばさ」歌会作品
― さまざまな愛のかたち ―
第一席(5票)
老いゆけし母の手を取り桜道天のぬくもり願い深しも B.Y
年老いた母をいたわる気持ちが、満開の桜と天国の美しいイメージとともに優しく広がっていくとても心地よい歌。2月連続第一席の作者の実力に敬服。
第二席(4票)
はるばると息子来れる、思い出を語らず食らう夏の夕暮れ N.S
「食らう」の語に不満の気持ちが読み取れる。作者は息子の父であるが、仮 に母だとすれば、また違った印象を与えるであろう。
瞼(まなぶた)の火影を辿るミロンガの名前も知らぬ君に委ねて V.R
タンゴを踊っていると、たまにフィーリングが合ってそのままついて行こうかしらと思う瞬間があるそうである。妖しい愛の雰囲気が中年男を惹きつけた。
第三席(2票)
愛されし記憶わずかに遠のいてうなだれて夜の家路をたどる N.S
深夜、帰宅を急ぐサラリーマンたちの胸に去来するそれぞれの愛の記憶。「わずかに」の語が良くも悪しくもひっかかる。心の隙間を詠った歌。
愛おしき巣立ち我が子と夢ごっこ過ぎ行く夏の夕焼け子焼け B.Y
巣立ってしまった愛おしい子供と久しぶりに過ごす夏休み。夢のような時間も、夕焼け小焼けのチャイムのように終わりを告げる。儚くも美しい歌。
いつもとは調子はずれたテンポとリズムセッコウギブスのわが子のあゆみ K.H
一読して情景が目に浮かぶ。セッコウギブスのカタカナ表記とぎくしゃくした歩みが良くマッチしている。怪我されたお子さんの回復は順調ですか?
遠雷が七夕を送る明け方に同床異夢だからこそ同じ夢見たし I.I
愛する人と共に迎えた七夕の朝。一緒にいてもしょせん他人同士だが、願わくばずっと同じ方向を向いて生きていきたいものだ、と遠雷を聞きつつ思う。
わがままも聞いてあげる父だけど時にはふんか(噴火)介護愛かな I.Y
父を思う娘の素直な気持ちが良く表現されている。「介護愛かな」が言わずもがなで惜しい。ふんか(噴火)は、ふん、とそっぽを向くこととの掛け言葉か?
わが骨(こつ)を夫のそれと混ぜたまへ永遠(とわ)の眠りを分かち合うため T.H
リズムがあってとてもきれいな歌。このように言い切れるのは、すごい愛であるし、うらやましくもある。
両手広げ空を抱くようにきみを愛そうまっさらな心で真っ白な花咲かせ M.M
とても自然で素直な歌。誰に対してであれ、人を好きになる時はこんな気持ちでいたいという、純粋な愛の賛歌。
第四席(1票)
(長女出産)君の横大丈夫かと尋ねつつ一緒になって吸ったり吐いたり Y.K
いわゆるラマーズ法を実践中の若く優しい夫。今月作者は、新婚時代回顧三部作を発表し、その愛妻歌は一部女性読者を興奮させた。
若き恋恋に恋してナルシスト思い乱るるは熱病の如し G.N
誰にも思い当たる節があり、その意味では共感できるが、やや解説的に過ぎてイメージが膨らんで来ないのが残念。
グロゼイユフランボワーズ赤い実たわわ今年のジュレはメイド・バイ・タカコ Z.T
義母がいつも庭の果実で作ってくれるジュレを今年は自分が義母の長寿を願って作ろう。その愛は尊いが、歌中に義母についてのヒントが欲しかった。
置いてけよ肌の香一片モヘア抱き最終便を目で追う君 M.Y
遠距離恋愛中の男女。束の間の逢瀬の後、帰っていく女に男が呼びかけている場面とのこと。様々に想像力を掻き立てるところがおもしろい。
(結婚前)アパートの狭き部屋なるその隅にそっと置かれた君の姿 Y.K
フランスの小さなアパートで暮らす結婚前の男女の姿。遠慮がちな表現の中に、つつましくいじらしい愛情が感じられる。昭和時代が目に浮かぶ歌。
真夏日のしぶき上げつつ子供らとたわむれながら今日も過ぎゆく B.Y
水遊びをしている情景が目の前に広がって来る。音もいい。この様な何でもない日常を過ごす事の幸せが愛に満ちている。時間の流れ、余韻を感じる。
愛国心お国の為に戦いて散りせし命露とし消えゆる
G.N
個人的感情を大きな次元に高めた時にこういう歌となる。私たちは、実は普段からこういうことを考えているのではないだろうか。
見るだけねとしゃがみこむ小さな背にまたやられたねと甘き親たち T.H
子供に甘い親を第三者の視点でカメラで写すように歌っている。かわいい感じに好感が持てるが「甘き親たち」が説明的に過ぎ別の言葉だともっと良かった。
鳴き交わす小さき鳥のさえずりにまぶたに浮かぶあけゆく祖国 T.H
「あけゆく祖国」は際どい言葉で、そこまでの不思議な感覚が最後に種明かしされ残念。作者は日本でロンドン五輪を見てたのでは、との解釈も。
その他作品
遇い逢い相開い藍哀遭い間挨飽い瞹空い合い合愛会い
全て「あい」と読む。連作ではなくこれだけ独立して鑑賞するのは無理との一方、漢字の意味から物語になっているのでは、との意見も。
藍色は青より出でて愛染め色味わい深く艶やかになりぬ(艶やかなり)
各句の出だしを「あ」 からスタートしている。良く出来ているが、中国の詩に同様のものがある、との意見が。
(新婚ほやほや)暗き道一緒に帰るその途中いつものスーパー今日はステーキ
60年代~70年代の日本の時代を感じさせる歌。ステーキというのが泣かせる。いわゆる「神田川」の世界に大いに共感。
五月晴消えゆく機体見送ってかすむ視界思い出すごと愛(かな)しさつのる
遠距離恋愛中の気持ちを歌った。良い歌だがまとまり過ぎか。黄金週間後に飛び立った飛行機はどこへ向かったのか?そしてその愛の結末は?
大空を切り裂く飛行機雲の果て裂かれぬ愛を信じて憩う
何故憩っているのか良く分からなかった。オーベルニュの高原の空を飛ぶ飛行機の彼方に存在する神様の愛に憩っているとの説明で納得。
しあわせは絶対ひとりでやってこない初夏の夕暮れとりあえず乾杯
久しぶりに帰国した作者が、日本の飲み会では「とりあえず乾杯」と言うことを発見。その意味と場面を追求した作品。
追憶の重き扉も赤葡萄(ワイ)酒(ン)するりコロンの香りそのまま
香りは記憶と強く結びつく。赤葡萄酒(ワインをあえてこう表記した)の香りをかいだ瞬間によみがえる過去の愛の記憶。それは甘いのか苦いのか。
一度だって愛してるとは言われてないだけど知ってる愛されている
日本女性らしいかわいらしさが出ている。どのような関係でも、「好き」と言われることはあっても「愛している」と言われることはない、という発見。
「ねえ、ほら」「うん」すくない言葉で通い合う共に過ごしたときの長さよ
ともに過ごした時間の長さが、二人の一体感を高めていく。共感ないし納得はできるが、説明的に過ぎて感動を与えるには至らなかった。
白き歯の唇の形を真似ている発声レッスン恋のてほどき
仏語学習を始めた頃、先生の目ではなく唇を見ていた。仏語発音の難しさから納得できる。そこから芽生える恋も、経験したことはないが納得できる。
ほとばしる思い重なりKizuna生まれ薔薇語が行き交い絆深まる
言葉は通じなくても互いの専門の薔薇の用語で交流と絆が深まっていくことの感動。Kizunaの薔薇についてはリヨン出張駐在官事務所のHP.参照。
永遠(とわ)に続く愛はなしされど永遠に勝る一瞬は刻まれしきみと
どんなに深い愛にも必ず別れは来るが、この素晴らしい愛の一瞬は永遠に私の記憶に刻まれる。良く理解できるが、抽象的かつ解説的に過ぎるか。
不良っぽいところがいいねイタリアは優雅にうなずく束髪(シニョン)のうなじ
会話をしている二人の関係とイタリアの位置づけが不明。作者が始めて来仏した頃の70代の伊男性と40代の先輩日本女性の関係とのこと。
【番外作品】
大野山そびえ輝き愛されし世界に誇れり神の山なりB.Y
7月第一席作者のサービス作品。リヨンオペラ座首席指揮者の大野さん(大野山)への愛と敬意を込めて。番外でなければ投票してたのに、という人が。
今月の栄えある第一席の歌は、先月に続きB.Yさんの歌が選ばれました。
おめでとうございます!!
さて来月の題詠は「八月」。
自由歌と合わせて2首の歌を提出ください。
今から次の歌会が楽しみですね。
歌会の一場面。
さてほろ酔い会を始めましょうか。
とりあえず乾杯。「愛と青春に!?」
7月のワイン試飲会で大好評だった仲田さんのワインを頂きました^^。
M.M
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by tankalyon
| 2012-08-10 16:43
| 歌会報告