リヨン日本人会短歌クラブ
by リヲンのつばさ
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第十二会歌会報告(2013年6月3日)

みなさま、ご無沙汰しています。

春らしい春が来なかったフランスですが、7月に入り一気に真夏が
やってきました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

さて、遅くなりましたが6月の歌会報告をします。

今回も前回に引き続き、I.M.さんに読みごたえのある報告を執筆
していただきました。ありがとうございました。

みなさま、どうぞご鑑賞ください。

なお、ひとつお断りしておきますが、今回特別参加された、東京心の花会員の
Y.Y.さんの歌は、都合により掲載しませんのでご了承くださいませ。

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二〇一三年六月三日「リヲンのつばさ」歌会  

― 作品集 ―
【題詠・さす】

第一席(七票)
 玉三郎目じりにひとすじ朱を注せば女の精がつと匂い立つ    Te.H.
初句の『玉三郎』という言葉の存在感に惹きつけられてしまった、という女性の声が多く聞こえた作品。全体的な言葉選びが上手い。『ひとすじ朱を注す』だけで女に変身する歌舞伎化粧の妙、その瞬間の捉え方も秀逸。一方で、初句・二句の字余りが若干気になった、また、ありきたりの言葉が多いのも残念、という声も。

第二席(三票)
 OFF-ONの隙間を埋める藍を挿すアイラインを引く 細く濃く引く   I.M.
結句に強い意志を感じた、艶めかしい、女の情念を感じる、OFF-ONの表現が面白い、など、好意的な感想を持った読者と、冒頭の『OFF-ON』の意味がわからず感情移入が出来なかった、という読者とふたつに分かれた。また、若干動詞が多すぎるのでは、という声も。OFF-ONを目の瞬きの様子と捉えた読者もいたが、作者はOFFタイム(プライベート)からONタイム(仕事)に移行する隙間を目化粧に準えたようだ。

 両ひざにのせし孫たち天をさすダヴィンチの描く母子の構図で      I.I.

大人の膝に乗って戯れる幼子達の様子が微笑ましい。絵画的に美しくそして愛情豊かに詠んでいる歌。言葉の量も適当。結句に説明が入ってしまったのが、少し残念。

第三席(二票)
 やはらかく包まれて受く「ありがとう」せつなさ鎖しつ春は暮れゆく    M.M.
一期一会へのありがたみとそして、その後に訪れる離別の寂しさが連鎖していく様子を作者は表現したかったのだろうか。『鎖す』が聞き慣れない表現であるが故に、歌の意味が理解できなかった、という参加者が多かった。『鎖す』は広辞苑によれば、「戸口や錠を閉ざししめる」という意味合いで使われるようだ。また、「『鎖しつ』の『つ』は『つつ』の誤りでは?」という声も聞こえたが、短歌では『つつ』を『つ』で代用することはよくあるようだ。しかし、ここでは作者は完了形の意味で『鎖しつ』としたそうだ。

 藍布に ひとはりひとはり こめられた思い伝わる 津軽刺し子     S.H.
字余り、文字空けは気になったが、言葉の裏に隠されているイメージが広がる歌と、概ね好評を得た作品。歌謡曲になるすれすれのところで、哀愁が感じられる。厳寒の風土ならではの津軽という地と、針の尖っているイメージが重なるところが良いとも。

第四席(一票)
        Y.Y.


佳作
 コケコッコ光にも射され早起きを三文の徳にあやかれしかな      
『コケコッコ』という言葉がかわらしい。ただ、その冒頭のコミカルさと、結句の文語体の保守的なイメージとのアンバランスがいささか気になる。字余りが歌のリズムを乱してしまっているところが残念。


 ようやくの強き陽射しが街にさし冬の終りを告げる青空         
素直な気持ちをそのまま詠んだ綺麗な歌なのだが、それで完結してしまっているため、膨らみに欠けるのが惜しい。

 あの人の刺すような目が苦しくてひたすら走るプジョーサンセット107    
映画のワンシーンのようで格好が良いという第一印象を持ったものの、『あの人の目に刺されて』苦しいのか嬉しいのか、逃げているのか向かっているのか、詠み手のシチュエーションが理解できず、あまり共感できなかった、という声が聞こえた。107をサンセットと読ませたところに、Sunsetなどの裏の意味があるのでは、と考えた読者も。
 
 部屋のなかビニール傘を差すゆうべ花の咲くらむあぢさゐ寺に  
    
票こそ入らなかったものの、参加者の誰しもが好印象を持っていた歌。上の句で現実を、下の句で懐かしい風景の連想を描いている。ただ、『ビニール傘』というあまり詩的ではない言葉が使われていることが、残念という声も。それに対し、このビニール傘のビニールにぼやけて透けて見える先に、あじさい寺の紫陽花の花が浮かぶ、という風に読めるのでは、という意見もあった。

   
【自由歌】


第一席(五票〉
         Y.Y.


第二席(四票)
 老いてなお生地は満州と書くわれをセピア色した亡き父母笑わん       Te.H.

満州で生まれ戦後引揚げてきた作者の物語を感じさせる歌。時間の経過がそこに見えるようだ。ただ、下の句の出だし、「セピア色した」の表現がありふれているのが若干気にかかる。『色した』を『色なる』としたらより良くなるのでは、という声もあった。

第三席(三票)
 点滴のむこうの春をひらくため孫の手にてカーテンを寄す          I.I.
「点滴の向こうの春」という冒頭に、病いを克服した先には春がある、という患者の希望が見えて良い。『春をひらく』という表現も絶妙。『孫』の小さな手でカーテンを引き寄せている絵もかわいらしい、という声に水を差すように、後にこの歌の詠み手だとわかる作者は「これは、ひとりで自分の背中を掻く時に使う『孫の手』かもよ」とコメントして笑いを取っていた。実際、どちらの意味にも取れるように、作者は遊び心を詠みこんだらしい。

第四席(二票)
 始まりと終はりのはざまいとをしむたとえばパリの雨よりそひて      M.M.
束の間の晴れ間と雨が、出逢いと別れを象徴しているような、そんなロマンチックで美しい歌。『パリの雨』に寄り添うという表現が、映画『シェルブールの雨傘』を思わせるとの評も。

第五席(一票)
 寝たっきり生あらば死あり待つのみか見舞いも悲しく我が身も思う   G.N.
「身につまされる」と投票者はコメント。ただ、感情をそのまま読んでしまっているのが、残念。


  背を伸ばし足差し出していざフロアー音めくるめく 夜空に満月       Tsu.H.   
これから、表舞台に出て行く前の、女性の潔さのようなものが感じられる。フロアに音がめくるめく、という表現が、この歌の情景を連想するにはいまひとつ足りず、共感に至らなかったという声も聞こえた。作者は、現在習っている社交ダンスのデモンストレーションのときのことを思い出しながら歌ったのだという。


  雨かんむり 草木包み 一吹きに 緑の水滴ふるえとび散る  
             S.H.

異常に雨が多く、うっとおしい今年のフランスの春を象徴するような歌。『雨かんむり』という言葉の飛躍の力が素晴らしい。漢字とひらがなのバランスも良い。しかしながら、上の句の勢いが良い分、下の句があまり広がりもなく結ばれてしまったことが残念という声も。

佳作
  実をつけぬおしべめしべを持つ花を踏みしだきゆく聖者の行進            

歌の意図するところがわからない、という声が聞こえる中で、参加者の一人が、「これは、同姓婚反対デモのことを歌ったのでは?」と指摘。実際作者は、「子孫を繁栄できないという理由で同姓婚を否定する、自称『正義』のデモが大々的に行われていることが理解できない。それは、敢えて子を持たない選択をする、もしくは、持つことができないカップルをも否定してしまうことになるのだから」と、この歌を詠んだのだという。読者へのヒントが足りなかった。    
    
  雨の午後ひとり佇む晩年のコローが描く大樹の下で
                     
題詠に続いて、自由歌にもコローが登場。コローは晩年、『Souvenir(思い出)』と題名に入れる、森や湿地などの田園風景が主である、回顧的作品を多く残したのだという。詠み手は、雨の日の午後の美術館で、コローの鈍色の光の中に立つ大樹の絵を鑑賞している。静かにゆっくりと時が流れる、優しい作品。

  この丘の遠くに広きアルプスの目をさす白き雪の峰など                  
全体的に綺麗で良い歌だが、遠方に見えるアルプスは、果たして目をさすか?という単純な疑問を残す。もしくは、昔目の前に見た、眩しくも真白なアルプスの雪の峰を、作者は思い寄越しながら詠んだのか。



※今回の『リヲンのつばさ』歌会では、心の花の会員で、ジュネーブに留学中の大学生、Y.Y.さんが、ゲストとして参加してくださいました。短歌に親しんで10年になるというYさんから、旧仮名遣いのことや、文語体の混ぜ方、短歌の様々な用語を教えていただきました。私達から見れば短歌の大ベテランであるYさん、本当にありがとうございました。あの夜、『初句・二句』を『食肉』、『句またがり』を『熊田狩り』と連想したのは、私だけでしょうか? 学校を卒業して久しい歳になっても、学ぶことってこんなにあるんだなー、と、また情けなくなってしまいました。短歌って、奥が深いですねぇ。(それから、旧字って、コピーペーストの他に、どうやって文字変換させたら書けるのでしょう?? どなたかご存知でしたら教えてください!)   I.M.


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I.M.さん、司会のピンチヒッターと報告、本当にありがとうございました。
今回ご都合悪く欠席となった、N.S.さん、詠草の取りまとめありがとうございました。


M.M.
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by tankalyon | 2013-07-09 21:30 | 歌会報告